World of entanglement 2020

4000 × 2500mm, acrylic and oil and yarn on canvas
2020年


自分自身の原風景のように思える場所がある。故郷である山口県岩国市、祖母の家の周りの山々の風景だ。その場所は、山に囲まれ、猿や猪など獣が生息し、川の流れる自然の豊かなところだ。川をなぞるように歩ける道があり、そこは自然につくられた地形のようでもあり、人為的に作られた土手のようでもあった。そこが祖母の庭だった。祖母は庭を手入れするのが好きだった。

 

祖母が体調を崩したため、山口の家に帰省したときのこと。手入れできなくなった道は、植物が増殖し、通せんぼになっていた。わずか一ヶ月ほどで、自然が想像を超えるほどの、あるままの姿になっていた。これまで、祖母一人の働きが、大きな自然に対して影響を及ぼし、庭を維持していた事実に直面したのと同時に、自然の圧倒的な力に驚いた。

 

自然あるままの風景になる以前も、その場所は、人間が自然を支配するような風景ではなかった。祖母と自然が相互に共同体として環境を形成していた。私は、取り巻く自然なるものと私たちがどう関わっているか考えたい。人為的なものが突然に失われ、自然あるままの環境へと変容され、そしてまた続いていく様を見ながら。自然なるものと人間世界の関わり合い、これが、私が本作に込めた一つの課題である。ただし、これまで私は、人間とそれを取り巻く自然との関係をテーマに制作してきたが、それは大文字の自然としてではなく、あくまで一人の個人として経験した出来事から着想し、個々人をとりまく環境世界において考察することを重視している。

 

本作の風景は一つの場所を指しているが、現地で実際に撮った写真の複数枚を組み合わせ再構成している。生き物のように見えるが、実際の自然の形を変えているわけではない。木々や川など、それぞれが繋がりをもったものとして、一体となった形を目指している。

 

画面には、複数の目がある。風景を見つめる自分自身の目、鑑賞者の眼差し、祖母やそこに生息する全ての目を含意させている。私たちは、こうして〈 見る - 見られる 〉ようにして生きている。環境は人間を含めとりまくものであり、人間は自然の中にいるということを暗示している。そうした眼差しの交差する場を、鑑賞者を巻き込んだ「環境」として設定することで、自然と動物と人間が一体化した世界観を提示している。

 

素材として使用した糸は、また別の故人の遺品を使用させて頂いている。お宅の中に大量に遺された糸は、自然の中で採取した植物の染料や、絹などの動物繊維である。これらは、人間が自然を抽出するように染めあげた糸である。画面上に構築されている風景は、様々な環境との繋がりを持ちながら、故人が遺した自然の糸と織り合わさり、複雑な時間の層を形成している。画面から外側に繋がるように延びた糸は、作品が置かれる環境や、対峙する鑑賞者との連続性を表している。環境においても、蓄積された出来事や時間などの間に以前/以後と切れ目を入れ抜き出すことはできない。時間の流れの中で、破壊や再生を繰り返しながら始まりをその度に予期するほかないのだ。今、まさに成立している状況は、人間をとりまく自然、様々なものが相互に影響し合い、織り重なるようにして、そして変化を続けていく。絵の具や記憶、そして風景を結び合わせ、新たな世界を生成しよう。

 



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