青い火

「青い火」
2024年11月8日(金)~2024年11月24日(日)
EUKARYOTE/ 東京

「青い火」
2024年11月8日(金)~2024年11月24日(日)
EUKARYOTE/ 東京

 




photo by Minamoto Tadayuki

「青い火 -blue view-」 


本展のための作品制作する渦中で、私は静岡の柿田川湧水群を訪れました。
柿田川湧水群は、約8500年前に富士山の爆発で大量に噴出した三島溶岩流層とその下の火山表層の性質により、雨や雪 解け水は地下水となって流下し、三島は、直径5メートルほどの円形の泉となっていました。その水面の奥に、3.5メートルほどの最深部から源水が湧き出しており、サファイアのような青がひろがっています。本来、水の性質は、青以外の 光を吸収しやすいため、水面が強烈なまでの青色をしてることは希少です。
私たちの目に映るまでにも、水に含まれる不純物や、その日の季節や天候など、環境が複雑に反映しているでしょう。 私が目にした自然の中のその青は、見ようとしなければ見ることのできない、しかし、そこに確かに存在している色の姿のように感じたのです。 
青い円の中には、魚が泳いでいました。透きとおり、人肌以下のひんやりとした温度の水が、ボコボコと音を鳴らしながら、 絶えず新たな水で円を満たしています。目には見えないが自然の中に確かに存在するものを想像し、見ようとしなけれ ば見えないものに気付くこと、自身の存在とそれを包みこむ世界とを同時に認識し、世界とのつながりを憶えた経験と言えます。そのイメージをもとに、青い色調が響き合う近作と新作を中心に、平面のほかセラミックによる立体作品を発表いたします。

 この〈青〉について、つぎのように言い換えてみても良いかもしれません。
「水や空など、物体として見えないものを、こどもが色や形で表現するとき、手に取ったり塗り重ねたりする、そういった野生の感性の青」

光の現象について、科学的な根拠を抜きにしても、人間には見えないものを色や形にするときに〈青〉を思い描くような、 潜在的な感性があるように感じています。

本展の作品群を制作するにあたり、〈青〉に着目したきっかけは、2024年10月開催のアートフェア「MEET YOUR ART FESTIVAL 2024, 5 SENSES by ボンベイ・サファイア」という展覧会を機にボンベイのジンを改めて飲み、感じたことでした。
その液体は、何種類もの自然物を蒸留した複雑さを持ち合わせているのにも関わらず無色透明であることと、その透明さを可視化するようなガラスの自然な <青> の働きがありました。それは、自然界のなかにある見えざる働きに気づいたときに、その不可視の繋がりを感じるような、私自身の感覚にもつうじています。

そうしたきっかけと、自分の中にある自然観が繋がった瞬間が作品制作の原動力でもあります。実際のボンベイサファイアのボトルを砕いたガラスを素材にセラミックと融合させて、交わることのなかったであろう素材同士が繋がること、各々の思考の時間、情景、モチーフなどが詩作のようにして、交接し、作品として結晶化しました。

科学技術が発達し、見えない距離の情報や、指先ひとつで見たいものを簡単に検索する事が出来るようになりました。
しかし私は、見たいものだけではない、見えないけれど確かに存在する世界に焦点をあてたいのです。周囲のものに対する実感や、私たちの想像力が真の現実性に働きかけるように、作品に青を灯して。

高山夏希

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