堆く、石走りて
「堆く、石走りて」
2024 年 4 月 7 日(日)~ 2024 年 6 月 2 日(日)
rin art association / 群馬
2024 年 4 月 7 日(日)~ 2024 年 6 月 2 日(日)
rin art association / 群馬
この度 rin art association では高山夏希による個展「堆く、石走りて」を開催いたします。
高山夏希の絵画制作は重層的に幾重にも注射器を用いて描かれた色彩や、彫刻刀で繊細に削り落としながら、内包された未知なる色彩を探し出すように行われます ( 触覚的あるいは彫刻的とも言える手法を用いて現代の中で薄れてしまっている人・動物・モノ・環境などが一体性を持った世界観が生まれます )。その背景には情報メディアや電子機器の発達より、様々ものが断絶された状態にあるこの世界に対し、失われる以前の人間とそれ以外の物体との有効な関係を取り戻した いとの彼女の強い思いがあります。
今展は寒水石を用いて、分解と混合を繰り返しながら変容する素材との対話を重ね、丹念に作られた岩肌のような自然を想起させる肌理を有した絵画作品と、それに呼応するような地層の断片から創造した近年取り組んでいるセラミック 作品で構成されます。
接続することの意義性を問いかける高山夏希の作品をこの機会にご高覧いただけたら幸いです。
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photo by Kigure shinya
「堆く、石走りて」
2年前から神奈川県の三浦海岸の盗人狩りという岩場を視察している。泥岩と凝灰岩の互層からできている場所で、約1000年前に深海底でつくられた地層であり、地震によるプレートの変動を測定する場所でもある。そこに訪れたきっかけは、私の作品制作の様相と関係が深い。物質的に絵具を扱い、絵具を積層し削りだす表現から、自然に堆積した地層や切り立った崖、そしてそれらが海に侵食された様を、目で確かめたくなったからである。本展では、その体験を元に、水という媒質にあらためて傾注した作品群を中心に構成している。幾度か訪れる中で、目に写るありのままの風景は、水自体が主体性もちながら自ら形成している姿として、私の眼差しのなかに広がりを持つようになった。岩肌が、水の肌理のように見え、形の全体が一つの生き物のように感じられた。
視察のさいに、ビニールと同化した岩礁を目にした。後期近代の地層の中には放射性物質とプラスチック ( およびマイク ロプラスチック ) が長年分解されずに後年に検出されるだろうと言われている。それは新しい人類の地層年代、アントロポセン < 人新世 > として提唱されている。こうした実世界の環境の状態をもとに、人工的な色彩を取り入れようと私は意を固めた。私の作品の主な素材となっているアクリル絵具の媒材もまた、工業製品であり、プラスチックの一種である。 私の絵具の断層も、ある種の現代的な地層といえる。それは未来人の目にどう映るだろうか。こういった視点は、現代の社会だけではなく、未来の美術史や、より大きな人類史のなかで、私の作品にいかなる位置を与えるのか、それを待ちながらも尚、より深化を続けるよう促すのである。
岩のような凹凸のあるテクスチャーや、水と混ぜることによって生まれる溶岩のような表情。
岩肌に現れる微細な色彩層や、細かな起伏がつくり出す陰影によって現れる色彩。これを私は「skin-textured color( 肌理の色彩 )」と呼んできた。自然の中で見られる地層には、砂や火山粉砕物の比重の違いによって水に運ばれる順序が生じるため、多様な肌理が生じる。これと同じように、水が絵具と砂を運び、乾燥と同時に絵具の細かな顔料の上に粗い砂が顔を出す。画面の中で自然の現象を見つけることで、新たな基盤が形成される。自然に実在する不可視の水たちのように、目に見えないが確かに存在する働きを想像することは、新たな世界を自然と共に形成する手掛かりではないかと 考えている。水というエレメントが、様々なものを分解させ、生成を繰り返す、そのさなかに私は触れようと意識を傾けている。
高山 夏希