Natsuki Takayama × Brooks Brothers
「Mnēmosynē」 

2019年10月18日(金)~ 2019年10月27日(日)
ブルックス ブラザーズ 青山本店 / 東京

 

ブルックス ブラザーズには、その時代精神の中で生まれ、そして古典として遺されてきたものがある。200 年という歴史を持つブランドであり、素材や技術の面では絶えず更新しながらも、衣服が作られた経緯には 100 年以上も昔の記憶が今も語り継がれている。この場所で、展覧会を開催することが決まり、視察するにつれて、私は新しさよりも「記憶」について着目する ようになった。衣服や場所には、人の根底に根付く記憶があり、大きな意味を持ち始める可能性があるのではないだろうか。




 

『mnemonic』





 

photo by 石田宗一郎

「現代は、様々なネットへの常時接続が当たり前になり、毎秒巨大データが世界中でやりとりがされている。今やそれらのデータを物理的なデヴァイスなどには保存せず、クラウドなどを活用して仮想空間にストレージするのが主流となっている。ヴァーチャルな空間にいつでも好きな時にアクセスし、必要な情報を浴びるように摂取するのが当たり前になった。」*1 
現代において記憶とは、効率化が進む生活の中で不必要になってしまっているように感じる。 私はその感覚に危機感を覚えている。この現実は、周囲を取り巻くものへの実感や、現実への意識・記憶が薄れる危険性をはらんでいる。しかし、衣服や場所は、このような薄まる現実や記憶を包み込み、留める働きを持ちうるのではないか。
記憶情報に取り巻き結びつくものには、多様なコンテクストがあり、それらは、現実世界の中で私たち人間を取り囲む諸々の環境的要素との関わり合いである。例えば、衣服において、目に見えない大気の流れや、衣服と肌の間に滞留する空気、時間ごとに変わる風合い、洗濯した後の布の匂い、そのとき歩く場所、天候、布の感触、冬のニットの毛糸、風......無限に存在している。また、記憶の底にまどろむ幼年の無意識の感覚があり、肌に触れるテクスチャーや素材の厚み、柄、シルエットなどは、記憶と深く繋がっている。そして、実感に結び付けられ記憶となる。また、記憶と場所も深く結びついているものである。場所は、様々な環境的要素と関連しながら諸々の環境的要素をまるごと包み込む器であり、衣服と場所には記憶が残り、折り重なり文化や歴史となる。


本作は、ボタンダウンシャツ(ポロカラーシャツ)*2 の発案者でありブランドの創業者の孫にあたるジョン・E・ブルックスの ポロカラーシャツの誕生の逸話を元に、ボタンダウンシャツやレップストライプタイ*3 など、当初から現在に至るまで生産さ れている実際の衣服を素材としている。そして、馬と人間と逸話の情景の環境要素である「風」が表裏一体となった世界を、 記憶を重ね縫い合わせるように制作した。縫製のほつれなどの理由からお客様に出すことのできないシャツ、ネクタイをリユースし、新たに循環させることで作品へと転換した。


展覧会場であるこの場所も、この一帯で現存する旗艦店として最も古い歴史を持っている。この場所に訪れた当時の人は、ブルックスブラザーズの発祥のアメリカである母国にかえったようだと口にしていたという。場所へ記憶が結びつき、新たなる場所も過去の記憶と紐付きながら記憶となる。物理世界の方を変化させると、記憶内面との対応関係が打ち切られてしまう。 こういった元ある場所の記憶を誇示しながら、店内の環境を維持したまま、作品を点在させ、会場に過去作を含めた作品を探しながら鑑賞者が全空間を巡回するように作品を配置した。



*1.「記憶術全史」桑木野幸(著)
*2. 創業者の孫にあたるジョン・E・ブルックスは、イングランドのポロの試合を観戦した際に、選手の襟が風でなびかないようボタンで留められていたのに気づきました。ジョンはこの発見を持ち帰り、ブルックス ブラザーズの定番であり、「ファッション史上最も模倣されたアイテム」と言われるポロカラー(ボタンダウン)シャツを誕生させました。
*3. 英国の軍服だった斜め縦模様のレジメンタルタイ。ブルックス ブラザーズは、レジメンタルタイの縦模様を反転させたレップストライプタイを世に送り出し、左から右つまり「心臓から剣」の方向という意味から離れさせ、だれもが身に着けられるパターンへと変えました。
 

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