Natsuki Takayama × Brooks Brothers
「Mnēmosynē」
2019年10月18日(金)~ 2019年10月27日(日)
ブルックス ブラザーズ 青山本店 / 東京
DESIGNART TOKYO 2019 に参加し、2019年日本上陸40周年を迎えたブルックス ブラザーズと、現代アーティストとして初のコラボレーションを行った。創立以来200年以上の歴史の中で絶えず革新的な製品やサービスを提供し、何世代にもわたり歴代米大統領をはじめとする顧客に愛され続けてきたブルックス ブラザーズ。その伝統を、人物や動物をモチーフに幾重にも色彩を積み重ねた凹凸のある質感を特徴とし、世界の包括的な捉え方を提示する自身の制作コンセプトを通して紐解き、衣服に棲みつく記憶を表現した。
『mnemonic』
photo by 石田宗一郎
『現代は、様々なネットへの常時接続が当たり前になり、毎秒巨大データが世界中でやりとりがされている。今やそれらのデータを物理的なデヴァイスなどには保存せず、クラウドなどを活用して仮想空間にストレージするのが主流となっている。ヴァーチャルな空間にいつでも好きな時にアクセスし、必要な情報を浴びるように摂取するのが当たり前になった。』*1 この現実は、周囲を取り巻くものへの実感や現実への意識・記憶が薄れる危険性をはらんでいる。現代において記憶というのは生活の中で必要ではなくなってしまっているのかもしれない。その感覚に危機感を覚える。
ブルックス ブラザーズには、時代をめくるして誕生して残されてきたものが見える。そして、200年という歴史を持つブランドである。そこには素材や技術の面では絶えず新しさはありながらも、人の根底に根付く記憶のようなものがある。新しさよりも「記憶」ということの方が衣服において大きな意味を持ち始める可能性がある。衣服には、記憶の底にまどろむ幼年の無意識の感覚がある。衣服に持つテクスチャーや素材の厚み、柄、シルエットなどは、記憶と深く繋がっている。
衣服と場所には記憶が残り、折り重なり文化や歴史となる。
記憶と場所は深く結びついているものである。記憶情報に取り巻き結びつくものには多様なコンテクストがある。それらは、現実世界の中で私たちの周囲を取り囲む人間を含めた諸処の環境的要素との関わり合いである。目に見えない大気の流れや、空気、時間、洗濯した後の布の匂い、その時間に歩く場所、天候、布の感触、冬のニットの毛糸、風、、、、無限に存在している。そして、実感に結び付けられ記憶となる。場所は、様々な環境的要素と関連しながら諸処の環境的要素をまるごと包み込む器である。
本作『mnemonic』は、ボタンダウンシャツ(ポロカラーシャツ)*2の発案者でありブランドの創業者の孫にあたるジョン・E・ブルックスのポロカラーシャツの誕生の逸話を元に、ボタンダウンシャツやレップストライプタイ*3など、当初から現在に至るまで生産されている衣服を素材として、馬と人間と飾が表裏一体となった世界を、記憶を重ね縫い合わせるように制作した。
ブルックス ブラザーズの縫製のほつれなどの理由からお客様に出すことのできないシャツ、ネクタイをリユースし、新たに循環させることで作品へと転換した。
記憶において、物理世界の方を変化させると、記憶内面との対応関係が打ち切られてしまうことを踏まえ、会場に過去作を含めた作品を点在させ、鑑賞者が空間を巡回するように作品を配置した。
*1.「記憶術全史」桑木野幸(著)
*2. 創業者の孫にあたるジョン・E・ブルックスは、イングランドのポロの試合を観戦した際に、選手の襟が風でなびかないようボタンで留められていたのに気づきました。ジョンはこの発見を持ち帰り、ブルックス ブラザーズの定番であり、「ファッション史上最も模倣されたアイテム」と言われるポロカラー(ボタンダウン)シャツを誕生させました。
*3. 英国の軍服だった斜め縦模様のレジメンタルタイ。ブルックス ブラザーズは、レジメンタルタイの縦模様を反転させたレップストライプタイを世に送り出し、左から右つまり「心臓から剣」の方向という意味から離れさせ、だれもが身に着けられるパターンへと変えました。